2014年03月30日

Reverse508 おまけその三

ニアが中央に来てから一年、そしてカスケードが軍に戻ってから二か月。冬の一番寒い時期を越えるその頃、司令部内はそわそわし始める。この国の軍人は若者が多く、軍で青春を送る者がほとんどだ。イベントには敏感なのである。
「ニア大佐、ちょっと訊いてもいいですか?」
休憩時間に、シィレーネがニアを呼び止めた。
「どうしたの? 何かわからないことでも?」
「あの、仕事のことじゃないんです。ええと……」
頬をほんのりと染めて口ごもる彼女に、ニアは首を傾げる。出会ってから随分経ち、彼女の人見知りはかなりなくなったと思っていたが、今日はどういうことだろう。
「お茶でも飲んで落ち着こうか?」
「あ、大丈夫です。その、カスケード大尉の好きなものとか苦手なものとか、ええと、食べ物で、ですけど。教えてほしいなって思って」
遠慮がちに切り出されたのは、ニアにとっては「なんだ、そんなことか」と拍子抜けしてしまうようなことだった。けれども、これはシィレーネにとって、特にこの時期は重要なことだった。
ニアはそれに気づかない。それどころか、周囲が浮足立っていることにさえ気づいていない。
「本人に訊かないの?」
「ほ、本人には訊きにくいというか……ニア大佐なら知ってるだろうなって思って」
「? まあいいか。カスケードは辛いものが好きだよ。ピーマンと甘いものが苦手」
「あ、甘いの苦手なんですか……。どうしよう、困ったなあ……」
彼女が何を困っているのかも、もちろんさっぱりわかっていない。イベントに疎いわけではけっしてないのだが。
見るに見かねたアクトがやってきて、シィレーネの肩を叩く。
「シィレーネちゃん、甘さ控えめのお菓子の作り方教えようか」
「本当ですか? 助かります!」
「え、何? カスケードに何かあげるの? だったら何でも喜ぶと思うけれど」
「……ニアさん、まさか本当にわかってないの?」
溜息を吐きながら、アクトは卓上カレンダーを指先で叩いた。わざわざその日付を指し示すように。けれどもニアはまだ、頭に疑問符を浮かべていた。
「ええと、復帰二か月記念とか?」
「あのさ、ニアさん。この時期にチョコレート菓子をもらった経験、あるいはカスケードさんに渡すように頼まれた経験ない?」
「……カスケードにチョコ……。あ、もしかしてバレンタインデー?」
「もしかしなくてもそうだよ。さっきからどれだけシィレーネちゃんをいじめる気なのかと思って、はらはらしてたんだから」
近づくのは、恋の祭典バレンタインデー。とんとそういうことに興味のなかったニアは、すっかり忘れていた。ここ五年はカスケードへの取次もなかったこともあり、そのことはまったく意識の外だった。
いや、それにしても鈍感すぎるだろう。アクトはもう一度、深い溜息を吐いた。

二か月で環境にも慣れて、カスケードの仕事ぶりは順調だ。ニアの指示と監視が厳しいおかげで、きちんとやるべきことをこなしている。そんな彼らを、多くの人々は「優秀なブリーダーと躾の行き届いた犬」と評する。
さてその犬だが、初めのうちこそ敬遠されることもあったが、今では中央司令部内での人気はとても高いものになっていた。明るい笑顔と、頼もしい働きよう、そして大柄な体格とまだ残る幼さのギャップは、女性陣の心をわし掴みにしていた。
バレンタインデーを、彼と近づくきっかけにしようと考えている女性は多い。かつてカスケードは行方不明前にかなりモテていたが、それは今も変わらないらしい。もともと人を惹きつける才能を持っている彼は、慕われやすいのだ。
「カスケードさん、バレンタインはチョコまみれになりそうですね。紙袋たくさん持ってきたほうがいいですよ」
周囲はその雰囲気を察している。当日に起こるであろうことを想定して、アーレイドなどは早くにそうアドバイスしていた。
「そうかな。そうなると困るんだけど……甘いもの苦手だし……」
「その気持ちはわかります。俺も洋菓子が苦手なので、毎年もらったものをどうするか困ってるんです」
グレンが頷きながら言う。彼の場合、最終的には相方であるカイの胃に収まるらしいが。しかしそのカイももらう量は多いらしく、バレンタイン以降はしばらく糖分過多になるという。
「今年は親しい人が増えたので、手分けして片付けられそうだなとは思ってますけど。そうだ、アクトさんがチョコレートドリンクとかにしてくれないかな」
「どれだけの量になると思ってんだよ。それならあいつに直接食ってもらったほうが早ぇ。チョコ好きだし」
ジューンリー班の人員の多くは、同じような悩みを抱えているらしい。中央に来て初めてこの時期を迎える者にはまだ感覚が掴めないが、なにしろここは人の数が多い。普段、誰に見られているかもわからない。こういうときに自分の立ち位置がわかってしまうのだ。
「食べ物ならいいけれど、そうじゃない物はどうしたらいいのか悩むなあ。ボク、よくお姉さんたちからぬいぐるみとか時計とかもらっちゃうんです」
「ハルは可愛がられてるな」
「意外ともらう量多いんですよ」
ハルはお姉さま方から可愛がられ、アーレイドは同年代や後輩から慕われ、というように、どの層から支持があるかにもよって内容は変わってくる。かと思えば支持層が広すぎて、いったい誰から貰ったものなのかわからなくなることもしばしばだ。お返しのときに苦労する。
貰い物談義で盛り上がる中、ふとツキが思い出した。
「そういえば、ニアが中央に来てから一年だな。この一年でかなり支持を得たんじゃないか?」
「ニアが?」
カスケードはほぼ伝聞でしか知らないが、ニアのこの一年は中央司令部の話題をさらうものだった。指揮に立つこと数回、解決した事件は数知れず。疑われたこともあったが、功績の多くは誰もが認めざるを得ないものだった。
「ニアさんが受け取る量が想像できませんね。もしかしたらとんでもない数になるかもしれません」
「指揮のときのニアさんって、かっこいいですよね。人気あるんじゃないかな」
「いや、それよりさ。折角一年なんだし……」
「そうそう、カスケードさんもいい機会だから、日頃の感謝とか……」
貰う話も華やかだが、時期を気にせずにあげる側にまわるのもいいものだ。当人のいない隙に、男性陣の企画が始まった。

そんなことになっているとはつゆも知らず、ニアは仕事をしながらシィレーネの想いについて考えていた。
これまでカスケードは多くの女性から想いを寄せられてきたが、それを受け入れたことはなかった。しいていうならビアンカが、彼が記憶喪失になったのを良いことに付き合っていたらしい。シィレーネが気持ちを打ち明けたところで、カスケードがそれに応えるかどうかはわからない。
だが、そんなことは抜きにして、ニアは純粋に彼女を応援したかった。カスケードを好きになった女の子を応援したいと思ったのは、これが初めてだ。
彼女になら、安心してカスケードを任せられる。そんな、保護者のような気持ちがある。彼女の人となりを知っていて、彼女が実際にカスケードと再会するための手助けをしてくれたからこそ、そう思えたのかもしれない。
さりげなくカスケードにシィレーネの印象を聞いてみようかとも思ったが、余計なお世話かもしれないと思い直してやめた。この手のことに自分が首を突っ込んで、いい結果になったことがない。
――それにしても、みんなよく恋とかできるな。
ニアは、過去の度重なるカスケードと誰かの仲介を通して、恋心というものがいかに厄介かということを感じていた。ビアンカやマカの例もある。
シィレーネなら応援できると思ったのは、その厄介さが彼女には感じられなかったからか、それとも自分が厄介事に巻き込まれずに済むからなのか。どちらにせよ、自分はあまり良い性格ではないなと、ニアは苦笑する。
――僕にはたぶん、無理だ。人の関係を、外から眺めていることしかできないや。
バレンタインデーというイベントだって、きっと蚊帳の外だろう。できればそうでありたい。巻き込まれたくない。恋愛というものに対してだけは、ニアはきっと、誰よりもひねくれていた。
改めて周囲を見渡してみれば、なるほど、若い軍人たちのほとんどが浮ついているようだ。恋をするというのは、そんなに楽しいものなのだろうか。
「さっきから難しい顔をなさってますわね。どうかしましたの?」
メリテェアに顔を覗き込まれ、ニアは我に返った。そんなに考え込んでいただろうか。慌てて笑顔をつくって、「何でもないです」と答えた。
「それより、何かありました?」
「ええ、担当していただきたい事件がありますの」
事件書類を見たところ、尉官に任せても良さそうな案件だ。むしろこういうものは、よほどのものでないかぎりは積極的に下に任せ、昇進のための足掛かりに使ってもらいたい。今事務室にいる尉官をちらりと確かめてから、ニアはその任務を受けた。
メリテェアがその場を離れてから、先ほど確認した該当人物を呼ぶ。
「シェリアちゃん、一件見てもらいたい任務があるんだ」
「お、尉官向け任務ですか? いいですよ」
こちらへ来て書類を確認するシェリアも、もとはといえばニアが、彼女の想い人について聞いたことがきっかけで班に引き入れた人材だ。シェリアがカイを好きで、けれどもカイにはすでに相方がいることを知っていて、そのうえで班員になってもらった。彼女の恋は、叶わない。けれどもシェリアは何も言わない。余計なことをしてしまったかもしれないニアに対し、ただのひとことも文句など言ったことがない。
「……シェリアちゃんは、この班にいて良かったと思う?」
「なんですか、突然。良かったにきまってるじゃないですか」
こうして問えば、そう即答する。
「任務、アタシが受けていいんですか?」
「尉官組に任せようと思って。今ここにいるの、シェリアちゃんとカスケードだけだったから。カスケードはまだ僕の監視が必要だから任務には出せない」
「それじゃ、グレン大尉が外から戻ってきたら要確認ですね。カイさんと仕事できるといいな」
一緒に仕事ができれば、それでいいのだろうか。彼女はそれで満足なのだろうか。彼女の恋も、ニアが厄介だと思っている恋愛とは違うように思う。
「ねえ、シェリアちゃん。カイのことが好きなんだよね。彼とどうなりたいの?」
頭に浮かんだ疑問を、そのまま、しかし小声で口にする。
「え?! 何その質問……。どうなりたいとか、そういうんじゃないですよ。アタシは、アタシが好きなあの笑顔を見ていられるだけで幸せなんですから」
変なこと訊かないで下さいよ、とシェリアは笑う。笑っている。頬を染めて、明るく。
「ごめんね。僕にはいまいち、そういうのがわからなくて。ほら、好意も行き過ぎると、厄介なことになるじゃない?」
「ああ、そういうのもたまにありますよね。でも、恋愛の全部が全部そういうものってわけじゃないと思うな。アタシみたいに、見てるだけで満足というか、そういうことにしてなくちゃいけないパターンもある。幸せそうで微笑ましい二人もいる。アタシたちの周りにだって、そういう人たちはたくさんいるじゃないですか」
任務の書類を揃えて、シェリアは言う。
「意外に融通きかないんですね、ニア大佐」
「うん、そうみたいだ。変な話してごめん」
「謝るのなし。アタシは優秀な大佐殿にもわからないことがあるってわかって、ちょっと安心しました」
ニアから見て、いやきっと誰もがそう思うのではないかというくらいに、彼女の笑顔は魅力的だった。

バレンタイン前日の夜、ニアはいつものように温かい茶を淹れながらカスケードの様子を窺っていた。
どうも先日から、彼の様子がおかしい。まるでバレンタインデーに様々な期待を抱いている人々のようだ。彼らと同じようにそわそわしている。
「カスケード、お茶」
「え、あ、サンキューな、ニア!」
声をかけると、なぜかうわずった声で返事をする。何か隠し事をしているのは明らかなのだが、あのカスケードがニアに話さないようなこととはいったい何なのだろう。もしかして、カスケードにもバレンタインデーへの期待というものがあるのだろうか。誰か好きな子でもできて、その相手のことでも考えているのだろうか。
だとしたら、教えてくれてもいいのに。
「ねえ、カスケード。何か僕に内緒にしてることがあるでしょう」
「な、ないぞ、そんなの」
尋ねてみても、ばればれの嘘でごまかされる。――なんだか、面白くない。彼の全てを把握していなくてはならないというわけではないが、一応は監視下にある人間のことだ。また何か面倒なことに関わっていては困る。
「……僕には言えないことなんだ。ふーん……」
「いや、そんなことじゃないけどまだ言えなくて、じゃない、何でもないんだ、うん」
問い詰めても口を割りそうにない。それに今、カスケードは「まだ」と言った。時が来たら教えてくれるということだろう。それが手遅れにさえならなければ、放っておいてもいいのだが。
ニアはしばらく、こちらから目を逸らそうとするカスケードを眺めていた。このまま彼の困り顔を見ていても仕方がないと思って「わかった」と返してやると、あからさまにホッとしたような表情をされた。
追及したいのを我慢して、ティーカップに口をつける。近頃、変だ。カスケードも、周囲も、それからニア自身も。

そうして迎えたバレンタインデー当日、カスケードは朝から蒼い顔をしていた。司令部中に甘い匂いが充満していて、特にカスケードにはそれが大量に手渡されたために、すっかり参ってしまっていたのだ。
「カスケード大尉が甘いもの苦手なのは聞いてたけど、かなりつらそうだな」
「受け取るときはちゃんと笑顔だから、どんどん溜まっていくんだよね。いなくなる前のバレンタインと一緒だ」
呆れながらカスケードを見ているニアの机にも、可愛らしい箱が積み重ねられている。クライスも施設内を移動する間に手渡されるのか、資料と一緒に荷物をたくさん抱えていた。この状況は、もちろん自分や彼だけではない。ジューンリー班の男性陣はほぼ似たような状況だ。その中でも特にカスケードが貰っている量が多いのは、やはり彼の持つカリスマ性ゆえか。
「ニア大佐も結構な数で」
「意外に貰っちゃった。昔中央にいたときとは大違い」
「北方ではどうだったんですか?」
「顔見知りと、サクラちゃんからちょっと。知らない人からもこんなに貰うのは、人生で初めてだね」
ニアの場合は、それだけ一年間の働きが注目されたということだろう。中には本気で想いを寄せているらしいものもあって、返答に困る。だが、新鮮だ。こういうのはカスケードの専売特許だと思っていた。
「ニアさん、それ返事どうするの?」
「ごめんなさいするしかないかな」
まさか自分が恋愛ごとに巻き込まれるとは思わなかった。今までカスケードはどのように対処してきたのだったか。本人がすぐ傍にいるのに、「もしもカスケードなら」を考えることになるとは。
「そうだよな、恋愛音痴のまま受け入れたらどうしようかと思った」
「アクトは最近、僕に対して辛辣だよね。否定はできないけど」
時間が経つにつれて、男性陣の荷物は増えていく。カスケードなどは数回寮と司令部を往復することになった。あれを全部処理して、なおかつ、お返しのことも考えなきゃいけないのかと思うと、ニアも今から気が滅入る。
「ニア、俺なんかいっぱい貰ったんだけど、どうしよう……。確実に甘味で死ぬ自信ある……」
「そうだね、困ったね。それで、目当ての子からは貰えたの?」
カスケードが何でもほいほい貰ってしまうことと、そのせいで涙目になっていること、さらには仕事が進められないことに少しだけ苛立っていたニアは、特に意識もせずについそんなことを言ってしまった。口にして、頭の中でそれを繰り返してみて、はじめてとんでもないことを口走ったことに気が付いた。
やっぱり今のなし、と言おうとしたところで、先に返事があった。
「え? なんだ、目当てって?」
「……違うの? 最近、君がなんかそわそわしてるから、誰かからの贈り物を期待しているのかと思ってた」
「そりゃ貰えるのは嬉しいけど。期待はしてなかったぞ。もっと大事なことがあったからな」
時計が昼休みを報せる。それを待っていたかのように、カスケードがニアの手をとった。突然のことに驚くニアに、カスケードは満面の笑みを見せる。
「今から、それを教える。第三休憩室で、みんなが待ってるんだ。急ごう」

ニアは確かに恋愛音痴だ。というよりは、人間関係に対する向き合い方が極端なのだ。人の気持ちをよく考えるほうではあるが、それに気付くということに関しては、よほどわかりやすくなければできない。
だから人間関係を築くことや、慎重に修復していくことはできる。だが、バランスを崩してしまうことや危うくしてしまうこともしばしばだ。
そんな彼だからこそ、今この光景を見ることができる。人間関係は、恋愛だけでも仲間意識だけでもない。もっと深く、広いものだ。
そのことを、改めて思い知らされた。

「ニアさん、中央着任一周年おめでとう!」

連れられて来た第三休憩室には、いつもの仲間たちがいて。紅茶の良い香りと、温かな空気が満ちていて。何よりも大切な笑顔たちが、ニアを迎えてくれた。
「い、一周年って……」
「ニアが俺を捜すために中央に来てから、今月で一年だったんだよな。そのお祝いをしようと思って、準備してたんだ。俺からも、ニアに色々と礼をしなくちゃならないし」
カスケードがそう言って、ニアの背中を押す。彼が最近妙にそわそわしていたのは、このことを内緒にしていたかったからなのだろう。それを今、やっとわかった。
「ニアにはバレンタインデーよりこっちのほうが嬉しいんじゃないかと思って。だから今日はそのお祝いと、それからグレンの誕生日会も一緒に。な?」
「あ、グレン誕生日か! おめでとう!」
「ありがとうございます。……これは、誕生日を祝ってもらったからだけじゃないですよ。これまで俺たちを引っ張ってきてくれたことへの感謝です」
どんなに不器用でも、鈍くても、はっきりとわかることがただ一つある。ニアは、仲間に恵まれた。短所を補ってくれ、あまり広くない背中をずっと支えてくれる、仲間たちに。この光景が何よりの証拠だ。
「せっかくだからバレンタインデーもちゃんと意識してます。これは私たち女子チームから」
男性陣から話を聞いて、この企画に女性陣も乗った。リアから差し出された包みは素朴だが、可愛らしいもので、かかっているリボンは、ニアをイメージした緑色。それは彼女らが見てきた、いつも真っ直ぐに頑張るニアの髪と眼の色であり、そしてリアがいつか見た優しい救いの色だった。
「それから、男から貰うのもどうかなとも思ったんだけど、俺たちからも。カスケード、こっち来て開けろ」
ツキに呼ばれ、カスケードがニアから離れる。机の上に置いてあった大きな箱――よく見るとそれはクーラーボックスだったらしい――を、ニアに中身が見えるようにして、開いた。
「ニアの大好物、もう忘れないから。俺、もう絶対に、ニアのこと忘れたりなんかしないから。その証明みたいなものだと思ってほしい」
中身は、冬には寒いかもしれないが、けれどもニアならば絶対に喜ぶ品だ。
「もしかして、これ全部、アイスクリーム? こんなにたくさん、どうやって……」
「数日前から手配、運ぶのに車出して、他の客もいたから並んだ。手配組は電話だけだったからいいけどよ、この真冬にアイスクリーム引き取るのに並んだ俺をまず褒め称えろ」
「ディアさん、北国生まれだから平気じゃないですか」
みんながニアを想って用意してくれたものだ。好物ではなくても、たとえ何であろうと、きっと嬉しかった。
「みんな、ありがとう。僕、ここでみんなに会えて本当に良かった」
ニアがふわりと笑う。ここにいるみんなが好きな、ニアの笑顔だ。

昼休みも終わりに近づいたころ、ニアは他の女の子たちと談笑するシィレーネに近づいた。彼女はもう、カスケードに贈り物を渡したのだろうか。それが気になっていた。
それに気づいたシィレーネは、困ったように笑った。
「あ、ニアさん……もしかして、私がちゃんとカスケード大尉にプレゼントあげられたかなって思ってます?」
「ごめん、余計なお世話かなって思ったんだけど」
「気になりますよね。実は、まだです。大尉、いっぱい貰ってたから、私があげてもいいのかなって……」
あれだけの量を見れば、いつも一歩引いているシィレーネが躊躇してしまってもおかしくない。けれども、引け目を感じる必要はない。彼女はニアを助け、カスケードの傍にいると誓ってくれた人だ。堂々としていてほしい。
「行っておいでよ。きっとカスケードは、すごく喜ぶよ」
「……はい。でも、その前に、ニア大佐に」
シィレーネは持っていた手提げから、可愛らしい包みを取り出し、ニアに渡した。目を丸くするニアに微笑みながら、「約束ですから」と彼女は言う。
「私、大佐と約束しましたよね。ニア大佐とカスケード大尉、お二人の傍にいるって。忘れてませんよ」
彼女を、これまでカスケードを好きになったどの女性よりも応援したくなったのは、きっとこういう人物だからだ。彼女は、カスケードとよく似ている。
「ありがとう。……いっておいで」
「はいっ!」
二人がうまくいけば、ニアは独りにならない。結局はいつでも、それが怖かった。もう恐れる必要はないのに。ニアは、孤独にはならないのに。
もう、大丈夫だ。笑顔で、親友の、仲間の、幸せを願える。それを望める。
それが今のニアの、願いであり希望なのだから。

仕事を終えて寮に戻ると、北方から荷物が届いていた。
『お兄ちゃんと二人で分けてね』
サクラからのメッセージカードを、カスケードと二人で読みながら、ニアは結んできた絆が強いものであることを感じる。きっとこれからもそれは続き、増えてもいくのだろう。
「カスケード、貰ったのどうしようか?」
「食べる。せっかく貰ったんだから、感謝しなくちゃな」
「そうだね。……うん、そうだ」
甘いものが苦手なカスケードがそう言うのだから、ニアも我儘を言っていられない。誰かが想ってくれているということは、ここに存在していてもいいということなのだから。
「ところでサクラからのメッセージ、俺にはないんだな。お兄ちゃんはちょっと寂しい」
「二人で分けてって書いてあるじゃない」
「お兄ちゃんと、だろ。明らかにニアに宛てて書いてある。……まあ、うん。そういうことならいいか」
「?」
いつか絆の形は変わるかもしれない。けれども、それが大切なものであることには違いない。その日まで、大切にしていよう。



こんな時期にバレンタインか、と思いつつもおまけでした。
ニアにとっては新しい一年の始まりなので、この時期でいいのではと。

なんだかおまけも締めくくってしまったような雰囲気ですが、まだまだネタが続く限りやります。
次は何がいいかしら。
posted by 外都ユウマ at 20:55| Comment(0) | Reverse508 | 更新情報をチェックする
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